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いずれ持ち家? ず~っと賃貸? これからの住まいを考える

「今は賃貸、でもいずれは夢のマイホーム」という持ち家派の人がいる一方で、「住宅ローンに縛られるのはいや、ゆとりのある生活をしたい」という賃貸派の人がいることでしょう。住まいの考え方は人それぞれです。しかし、いったいどちらが正しい選択なのでしょうか? 今回はいろいろな角度から持ち家と賃貸を比べてみます。ぜひ住まい計画の参考にしてください。

日本人の持ち家比率はどのくらい?

日本では、持ち家と賃貸はどのような割合になっているのでしょうか。
総務省の住宅・土地統計調査(2013年)によると、全国の持ち家率は61.7%となっています。

持ち家率が最も高い県は、富山県で79.4%、以下、秋田県(78.1%)、山形県(76.7%)、福井県(76.5%)、新潟県(75.5%)の順です。反対に持ち家率が最も低いのは東京都で45.8%、沖縄県(48.0%)、福岡県(53.8%)、大阪府(54.2%)、北海道(57.7%)と続きます。
都道府県により大きな差がありますが、おおまかに言えば地方では持ち家率は高く、都市圏では低くなっています。不動産価格が高い都市圏では住宅を購入しづらいことも要因のひとつでしょう。

世代別の持ち家率は、20代後半では11.6%ですが、30代38.8%、40代59.6%と上がっていき、50代以上では70%を超えます。40歳前後が半数の人が住宅を取得するラインです。

全体の持ち家率は、この50年以上6割前後でほとんど変化がありませんが、若い世代では持ち家率が徐々に下がってきており、特に30代と40代では、30年間で10%以上も低下しています。

一方で、2018年の20代、30代の住宅ローンの残高が増えているという調査結果も出ていて、直近では低金利の影響か、若い世代の住宅購入が増えているという状況もうかがえます。

持ち家と賃貸のメリット・デメリット

持ち家と賃貸を比べるために、それぞれのメリットとデメリットを整理してみましょう。

1-1 持ち家のメリット

・資産価値がある(=売ればお金になる)
・住宅ローンが終われば老後のコストが少なくて済む
・毎月の支払額が同じなら、賃貸よりも比較的広い家に住める
・リフォームやリノベーションが自由にできる
・さまざまな税制の優遇がある(住宅ローン控除、住宅資金贈与、不動産取得税の軽減、固定資産税等の軽減)

1-2 持ち家のデメリット(リスク)

・気軽に引越しができない
・住宅ローンや固定資産税の負担がある
・自ら修理や交換をしなければならない
・災害により資産価値が損なわれる恐れがある
・売却時に価格が下がる可能性がある

2-1 賃貸のメリット

・家族構成やライフステージに合わせて物件を選べる
・気軽に引越しができる
・住宅ローンにしばられない
・修繕費(故意・過失による破損等を除く)や固定資産税を払わなくていい

2-2 賃貸のデメリット(リスク)

・家賃を払い続けても自分の資産にはならない
・老後も家賃の支払いが続く
・広さやグレードの割に家賃が比較的高い
・リフォームや改造が自由にできない
・ペットを飼育できる物件が少ない

それぞれのメリット・デメリットのうち、何を重視するか、それが選択における重要なポイントです。

持ち家と賃貸のコスト(お金)を比較してみる

持ち家か賃貸かを選択するにあたり、重要な決定理由のひとつは“コスト”です。コストには、“毎月の支払額”と、“ライフサイクルコスト(=住宅の生涯費用)”という2つの見方があります。
毎月の支払額は、主に住宅ローン返済額と家賃の比較なので分かりやすいですが、分かりにくいのはライフサイクルコストです。しかし、ライフサイクルコストはライフプランにも大きな影響を与えるため、軽視することはできません。

そこで、以下の設定で持ち家と賃貸の50年間でかかるコストをシミュレーションしてみます。

【設定】

家族は妻(パート勤務)と2人の子ども(5歳と2歳の保育園児)。

Aさん夫婦は、今の賃貸アパートが手狭になってきたこともあり、5歳の子どもが小学校に上がる前に広い住まいに引越したいと考えています。そこで、新築住宅を購入するか、広めの賃貸マンションを借りるか悩んでいます。Aさん夫婦は、住宅ローンの返済でも家賃の支払いでも、毎月12万円までなら支払うことができると考えています。
そこで、ほぼ同じ面積、同グレードの新築一戸建と賃貸マンションでライフサイクルコストの比較をしてみました。検討している物件の概要は、以下の通りです。

持ち家:4,000万円の新築一戸建(内訳:土地1800万円、建物税込2,200万円)
賃 貸:家賃11万円(共益費込み)、駐車場1万円の賃貸マンション

※計算の条件
・住宅ローンは、毎月返済額が約12万円になる借入額とする
・Aさんは、住宅ローン控除を満額受けられる所得がある
・家具・家電、引越し費用、損害保険料等は考慮しない
・インフレ、不動産価格および賃料の変動はないものとする
・住宅ローン控除期間は、消費税率が10%に引上げられた場合に適用される13年間とし、適用条件を満たすものとする
・固定資産税評価額は土地が時価の70%、建物は時価の50%とし、償却年数25年で残存価格は当初評価額の25%とする
・持ち家の修繕積立金は毎月1万円とする
・自動車免許は40年後の75歳で返納し、以降自動車は所有しないものとする

ケースA.持ち家の場合 50年間 合計5,692万円

物件価格4,000万円 諸費用200万円 総予算4,200万円
資金内訳【自己資金570万円、住宅ローン3,630万円(金利1.2%全期間固定、30年返済)】
毎月の返済額12万119円
表A:50年間のライフサイクルコスト
項目 金額
自己資金 570万円
住宅ローン総支払額 4,324万円
住宅ローン減税 ▲375万円
固定資産税 573万円
リフォーム費用 600万円
50年間の合計額 5,692万円
※▲はマイナスを示します。ここでは住宅ローン減税により375万円をライフサイクルコストから引きます

ケースB.賃貸の場合 50年間合計 7,384万円

毎月の賃料【家賃11万円(共益費込み)、駐車場1万円】
初期費用として40万円(礼金、敷金、仲介手数料、保険料、保証料等)
表B:50年間のライフサイクルコスト
項目 金額 備考
初期費用 40万円  
家賃 6,600万円 11万円×12カ月×50年
駐車場 480万円 1万円×12カ月×40年
更新料 264万円 11万円×24回
50年間の合計額 7,384万円  

ライフサイクルコストでは、持ち家の方が50年間で約1,700万円もコストが少なくて済むという結果となりました。
持ち家の場合、住宅ローンの返済中は賃貸よりも毎月の支払額は多くなりますが、住宅ローンの返済が終わると支払額は逆転します。特に年金が収入の中心になる老後のコストが少なくなるのは大きなメリットです。長生き時代では、老後の支払額の差はさらに広がることも予想されます。また、住宅ローンの繰上げ返済を積極的に行うことにより、支払利息を減らすことができ、ライフサイクルコストをさらに圧縮することができます。

ただし、同じ持ち家でも、新築マンションを購入する場合には、毎月の管理費と駐車場代が加わります。仮に、毎月1.5万円の管理費と1万円の駐車場代がかかる場合は、管理費が50年間で900万円、駐車場代が40年間で480万円、合計で1,380万円増加し、賃貸との差は約300万円と縮小します。
また、中古住宅や中古マンションの場合は、建替え費用や大規模修繕が必要になる可能性も増加します。

賃貸のコスト面での強みは、引越しが気軽にできることです。ライフステージや家族構成の変化により、広さのダウンサイジングが容易にでき、賃料を下げてライフサイクルコストを調整することも可能です。

このようにどちらの選択をした場合でも、住宅の種類や条件や状況の変化で結果が大きく変わる可能性があります。事前に、考えられる何通りかのシミュレーションを作成してみることが大切です。

まとめ ~住まいの選択で失敗しないために

ここでは、持ち家と賃貸をコストの面で比較しました。しかし、持ち家か賃貸を“お金の面だけ”で選んでしまうと失敗する可能性があります。なぜなら、人にはそれぞれのライフスタイル、ライフプランがあるからです。

例えば、将来実家に戻る予定がある人はあえて持ち家を考えなくても良いかもしれません。また、将来自宅を継いでくれる子どもがいない夫婦の場合、一生賃貸という選択肢もあるでしょう。それ以外にも、持ち家の資産価値を利用し、リバースモーゲージローン(持ち家を担保にしたローン)で老後の生活費を確保しながら、亡くなった後は金融機関に自宅を処分してもらうという考え方もあります。

最近は、シニア向け賃貸マンションやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など、健康なシニア向けの住宅が増えてきました。自宅を売却してシニア向け賃貸住宅に引越しをする高齢夫婦も増えています。さらに海外移住や週末別荘、サブスクリプション型賃貸など、住まい方のバリエーションも広がっています。

ライフプランは、人や家族によってさまざまです。住まいはライフプランによって変わります。住まいの選択で失敗しないためには、世の中の情報やそれに乗じたセールスに流されずに、自分や家族が住まいに何を求めているか、本当に大切なものは何か、という基準で選択をすることが大切です。それぞれのライフプランをイメージしながら、素敵な住まいを探してください。

執筆者プロフィール:
橋本 秋人(ファイナンシャル・プランナー)
住宅メーカーで30年以上相続対策・不動産活用を担当。在職中にCFPⓇ、FP技能士1級を取得。勤務先での業務及び日本FP協会埼玉支部、金融機関、一般法人等でセミナー講師、相談、執筆などを経験。
2016年にファイナンシャル・プランナー、不動産コンサルタントとして独立。現在は、FPオフィス ノーサイド代表としてセミナー、執筆、不動産コンサルティング、相談業務を中心に活動。不動産投資サイト等にコラム連載中。その他メディア執筆多数。