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「給料の3割が家賃の上限」はホント?お金のプロが教える家賃の考え方

パートナーと一緒に暮らし始めるとき、子どもが生まれて広い部屋に引っ越したいと思ったとき……と、新しい暮らしは部屋探しから始まります。そのとき、パパ・ママは家賃をどのように決めますか? あるいは決めたのでしょうか? よく「家賃は給料の3割まで」という話を耳にしますが、これは正しいのでしょうか。今回はその根拠を確かめながら、適正な家賃の支払額について解説します。

いくらの家賃で新しい部屋を探せば良いの?

インターネットの不動産サイトで賃貸アパート・マンションを検索してみると、ほとんどのサイトでは、住みたい場所の次に入力する条件は「賃料」となっています。また、部屋探しに不動産会社に行くと最初に聞かれるのが「いくら位の家賃でお探しですか?」です。その時に、「いったい私はいくらの家賃が払えるでしょうか?」と相談する人はあまりいません。ほとんどの人は家賃を自分で決めたり家族と話し合って決めたりしています。

でも、その家賃はどのような根拠で決めたのでしょうか。もちろん、収入から生活費などを引いて払える家賃をきちんと計算するパパ・ママも多いと思いますが、なかにはよく耳にする「家賃は給料の3割まで」という基準でざっくりと決めている人もいるのではないでしょうか。そもそも、この3割という数字は正しいのでしょうか。数字の根拠はどこから来たかを考えてみます。

「家賃は給料の3割まで」は住宅ローン返済の考え方がもとになっている?

「家賃は給料の3割」の根拠は、どうやら住宅ローンの返済負担率からきているように思います。では、具体的にどのような考え方かを見ていきましょう。家賃も住宅ローンの返済額も基本的に同じ考え方で決めますので、家賃の決め方の参考にもなります。

1.住宅ローンの返済額の限度は?

家賃と同じように毎月支払わなくていけない住宅の支出という意味では、住宅ローンの返済も同じです。ところが家賃を決めるときとは違い、住宅ローンの返済額の上限を分かっている人は必ずしも多いとは言えません。
そのため、多くの人が、銀行や不動産会社の担当者に、「私は毎月いくらの返済だったら返済ができるのでしょうか」「私はいくらの住宅ローンを借入れすることができるのでしょうか」「私はいくらの家が買えるのでしょうか」という相談をします。

そのような相談に対し、銀行や不動産会社の担当者は、総返済負担率の説明をします。
総返済負担率とは、住宅を購入する際に住宅ローンを借りたとき、その返済額の年収に対する割合の限度を言い、それぞれの金融機関が限度を定めています。このときの返済額には、住宅ローンだけではなく、自動車ローン、教育ローン、カードローン(クレジットカードのキャッシングや分割払い、リボ払いも含む)などすべての借入の返済額を含みます。

例えば、住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35」では、総返済負担率を以下の通り定めています。
年収400万円未満の人  30%以下
年収400万円以上の人  35%以下

フラット35の基準では、例えば年収が500万円で他に借入れがない人の返済額の上限は
500万円×35%=175万円(年間)
です。

これを毎月の返済額に分けると、
175万円÷12カ月≒14万5,800円(毎月・ボーナス返済なしの場合)
となります。

つまり、この人の場合は年間175万円、毎月14万5,800円までの返済額に収まる借入額までは融資可能ということです。

なお、民間の金融機関の場合、総返済負担率は実際の融資金利ではなく審査金利という高めの金利を用いて計算しています。それは、銀行の住宅ローンは変動金利型が多いので、将来もしも金利が上がった場合でも返済をしていけるかをチェックするためです。

2.借りられる金額と、本当に返済できる金額は違う

実は、総返済負担率は、現実の生活を考えるとかなり無理があります。
それは、総返済負担率の計算で用いる年収とは「税込み年収(額面年収)」のことだからです。税込み年収はサラリーマンや公務員が勤務先から支給される給料や賞与の総額のことですが、実際には社会保険料や税金などが差し引かれて支給されます。これは「手取り年収」とも言います。手取り年収の水準は、おおむね税込み年収の約70%~75%です。

例えば、税込み年収が500万円あっても手取り率が74%とすると、手取り額は
500万円×74%=370万円
しかありません。

フラット35の場合、年収500万円で計算した返済額の上限175万円を、手取り年収で計算してみると
返済負担率=175万円÷370万円×100≒47.3% となります。

これでは、手取り給料の半分近くを返済することになり、現実的に払っていけるとは思えません。

また、総返済負担率の問題点として、年収の低い人ほど、生活が苦しくなるということがあります。
同じ返済負担率であれば、例えば年収800万円の人は年収400万円の人の2倍の返済をすることになりますが、生活費も2倍かかるわけではありません。
つまり、年収が高い人は手取り額から返済額を除いた残額に余裕があり、年収が低い人はギリギリの生活になってしまいます。

そこで、現実的に返済できる金額を計算するためには、返済負担率ではなく、次の計算式で求めることが望ましいと言えます。

返済可能額=手取り収入-(生活費+教育費・老後資金などのための貯蓄+一時的な支出)

※教育費や老後資金は子どもの教育プランやライフステージにより、貯蓄額やバランスを見直しします
※一時的な支出とは、冠婚葬祭や旅行などの支出を言います

例として、税込み年収が500万円、手取り年収が370万円、生活費が年間200万円、貯蓄が30万円、一時的な支出が20万円の場合、
370万円-(200万円+30万円+20万円)=120万円となるので、
年間120万円、毎月10万円までが適正な住宅ローンの返済額ということになります。

税込み年収に対する返済負担率は
120万円÷500万円×100=24% 
と大きく下がります。

そして、手取り年収に対する返済負担率は
120万円÷370万円×100%≒32.4%
となり、手取り年収の約3割です。

このように実際に支払える住宅ローンの返済額は、単に総返済負担率で計算するのではなく、手取り収入から毎月の支出や貯蓄を差引いて計算することが安全で安心な方法と言えます。

家賃を決めるときに押さえておきたいポイント

さて、はじめの「家賃は給料の3割」という話に戻りましょう。

このように、3割という数字の根拠はおそらく住宅ローンの返済負担率によるものだと思います。
特に、家賃を「給料の何割」と考えるときには、年収ではなく月給、また税込み給料(額面給料)ではなく手取り給料をイメージする人が多いと考えられます。そうなると、3割はより現実に近い支払い可能家賃になります。
「家賃が給料の3割」というのは、あながち根拠のない話でもなさそうですね。

とは言っても、家賃も住宅ローンと同じように、収入から生活費・積立額・一時的支出を差し引いた金額を支払い可能額として計算するようにしましょう。

ここで、家賃を計算するときに注意しておきたいポイントがあります。

賃貸アパート・マンションは、家賃以外にも、共益費、駐車場、更新料、保証会社利用料などがかかります。これらの支出も家賃に含めて、毎月の支払額を計算します。更新料のように2年に1回かかる費用は、24カ月で割った金額を家賃に加算して平均の賃料支払い額を計算するようにしましょう。

また、夫婦の年収を合算して支払い可能賃料を計算する人もいますが、この場合は、ママがずっと正社員で働き続けるのか、産休・育休の間の収入減少期にも対応できるか、パパの収入だけになった場合でも家賃が払えるか、なども事前に検討しておくことが重要です。

まとめ~無理のない家賃で快適なアパート・マンションライフを~

家賃も、基本は住宅ローンの返済額と同じ考え方で決めますが、将来持ち家を考えているパパ・ママは、住宅資金の分も貯蓄する必要があります。そのため、家賃の支払い可能額は住宅資金のための貯蓄も加えた計算式になります。

支払い可能額=手取り収入―(生活費+教育費・老後資金・住宅資金などのための貯蓄+一時的な支出)

このようにして家賃を決めれば、新たなアパート・マンションライフが始まっても安心です。
部屋探しの際には、将来のライフプランを考えながら、無理のない家賃で探すようにしましょう。

執筆者プロフィール:

橋本 秋人(ファイナンシャル・プランナー)
住宅メーカーで30年以上相続対策・不動産活用を担当。在職中にCFPⓇ、FP技能士1級を取得。勤務先での業務及び日本FP協会埼玉支部、金融機関、一般法人等でセミナー講師、相談、執筆などを経験。
2016年にファイナンシャル・プランナー、不動産コンサルタントとして独立。現在は、FPオフィス ノーサイド代表としてセミナー、執筆、不動産コンサルティング、相談業務を中心に活動。不動産投資サイト等にコラム連載中。その他メディア執筆多数。