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103万円の壁は超えないほうがいい? 扶養内のパートで働くメリットとデメリット

結婚や出産、介護などさまざまな理由で、それまで働いていた会社を退職することもあります。その後、再び働けるようになったとき、正社員ではなくパートやアルバイトなどの扶養の範囲内で働くことを検討する方もいるでしょう。夫の扶養の範囲内で働くことには、どんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。税金や社会保険、総収入の違いなどから考えてみましょう。

扶養家族とは

Ushico / PIXTA

「扶養内」「扶養の範囲内」というのは、“扶養家族であること”を指します。

一般的に扶養家族とは、家庭内で最も収入が多い人に、生活するためのお金を払ってもらう、つまり生計を維持してもらう必要がある家族のことです。家事や育児に専念していたり、家族の介護をしていたり、働ける年齢に達していなかったり、学生や高齢者であったりする場合など、生活するためには資金面で家族からの援助を受けている人が扶養家族です。この扶養家族の条件内であることを、一般的に“扶養内(扶養の範囲内)”と呼んでいます。そのため、家族に一定の要件を満たしている扶養家族がいる被扶養者は、所得税の税法上の軽減措置を受けられて納める税金が少なくなったり、扶養家族分の健康保険料納付を免除してもらえたりします。

なお、扶養家族には「税法上の扶養家族」と「社会保険法上の扶養家族」があり、それぞれで要件が違いますので、まずは要件の確認をしておきましょう。

税法上の扶養家族

12月31日時点で、納税者と生計を一にしている親族であり、年間の合計所得金額が38万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)であり、青色または白色申告者の事業専従者ではないなど、一定の要件に当てはまる人が「税法上の扶養家族」となります。

夫が生計を維持している家庭で、扶養家族の要件にあてはまる妻や子どもがいる場合、以下の配偶者控除または扶養控除を受けることができます。つまり、配偶者控除や扶養控除により、生計を維持している夫が納める所得税額が少なくなります。

表1-扶養控除(扶養家族の12月31日現在の年齢)
扶養控除|国税庁
表2-配偶者控除
配偶者控除|国税庁
参考:

社会保険上の扶養家族

「社会保険上の扶養家族」も、主な収入を得ている夫や親などに生計を維持されていることが要件となります。同居している家族の場合は、年間収入が130万円未満(家族が60歳以上等は180万円未満)であって、主な生計維持者の年間収入の2分の1未満であるなど、一定の要件にあてはまる人が「社会保険法上の扶養家族」です。健康保険では、主な収入を得ている人と扶養家族が、病気やケガをしたときや亡くなったとき、出産した場合などに保険給付が行われます。病気やケガなどで通院した際に、病院の窓口での支払いを3割としてくれるのが一例です。


つまり、「税法上の扶養家族」になることで税金が優遇され、「社会保険上の扶養家族」になることで社会保険料を個別に払わなくても健康保険などが適用されるのです。

妻が、税法と社会保険の両方において夫の扶養家族となるには、パートなどでの収入を1年間で103万円以下に抑えておく必要があります。

なぜ年間103万円以下なのかを簡単に説明します。パートなどの給与所得者であれば最低でも給与所得控除65万円を受けられ、さらに所得税の基礎控除38万円を受けられます。これらの合計控除額が103万円であり、年収103万円以下であれば所得税がかからないのです。社会保険上の扶養家族となるには年間収入が130万円未満なので、103万円以下であれば、税法と社会保険の両方において扶養家族となります。

税金や社会保険から見る、扶養内で働くメリット

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扶養内で働くことのメリットは、納める税額が少なくて済むことです。妻は所得税を納める必要がなく、夫は配偶者控除により税額が少なくなります。また、夫が会社員で社会保険に加入している場合、扶養家族となることで妻の社会保険料は納めずに健康保険の給付を受けられ、さらに年金の3号被保険者となることで妻が個別に国民年金保険料をおさめずに年金給付を受けることができます。さらに夫の会社に扶養手当制度があれば、扶養手当も受け取ることもできます。

結婚や出産、介護などで妻が働く時間の制約を受ける場合など、正社員で働くのは難しく、パートで働くケースもあるでしょう。年収が103万円に近い場合は、年間収入が103万円を超えないように勤務時間を管理しつつ働くことにはなりますが、税金などの金銭的なメリットに加えて、正社員より仕事のために使う時間が短いというメリットが得られます。仕事以外の時間は育児や介護の制約を受ける場合もありますが、自分のための時間として使うこともできます。

総収入の違いで見る、扶養内で働くデメリット

正社員で働ける時間があり、育児上も問題のない環境である場合、税金が増えることや、社会保険を支払うことが損だからと懸念し、扶養内で働き続けることはデメリットと言えます。

一例ではありますが、結婚で退職した後の20年間を扶養範囲内で働いた場合と、扶養範囲を超えて正社員として働いた場合を比べてみます。時給1,050円で月に80時間働くと、1年間で100.8万円、20年間で稼げる合計金額は2,016万円です。扶養を超えて年収247.5万円(※1)の正社員として働いた場合、20年間で4,950万円稼げる計算になります。

※1:参考サイトの女性平均年収を元にした年収例


ここから税金や社会保険料を納めたとしても、20年間で得られる額は扶養範囲内で働いたときの2倍以上になるでしょう。さらに勤め先が厚生年金保険の適用事業所であった場合には、将来受け取れる老齢年金が増えることになり、老後生活も豊かになります。

妻本人の生涯賃金や老齢年金が増えることを考えると、正社員として働ける時間と夫の理解、そして妻が社員として働く意欲がある場合には、扶養内で働くことを選択するのはデメリットになります。

扶養内で働くか、扶養内を超えて働くか

しげぱぱ / PIXTA

ここまで扶養内で働くメリットとデメリットについて述べてきましたが、扶養範囲内で働くことが自分に合っている場合には、年間の収入が103万円を超えないように気をつければ、メリットは大きいと言えるでしょう。

妻が扶養内で働き続けるか、扶養の範囲を超えた稼ぎを得て働くかは、家計状況や家族の理解が必要であるため、それぞれの家庭によって異なる判断になります。家庭の事情や家計を考慮しつつ扶養内で働くことのメリットとデメリットを理解し、自分がどう働きたいのか、家族の理解はどうかなどあらかじめ話し合っておくことが必要です。

執筆者プロフィール:

杉浦 詔子(ファイナンシャルプランナー)
みはまライフプランニング代表
2005年にCFP資格を取得し、セミナーや相談会等のファイナンシャル・プランニングを開始。2012年に「みはまライフプランニング」設立。「働く人たちの夢をかたちにする」会社員とその家族等へのキャリアプラン(生活)とライフプラン(家計)の相談と講義、執筆を行っている。女性のキャリアと家族や恋愛等コミュニケーションに関する相談、FP等資格取得支援にも力を入れている。保有資格:CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、産業カウンセラー、キャリア・コンサルタント

サムネイル:ocsa / PIXTA